手術や抗がん剤治療と並ぶがんの3大標準治療の一つが放射線治療ですが、米国と比べ、まだまだ日本では普及率が低いのが実情です。当ページでは、放射線治療の基礎知識として、治療の特徴や種類、主な副作用や、放射線治療に関するQ&Aなどをご紹介します。
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がんと診断されたら、まずは「標準治療」と呼ばれる科学的根拠に基づいた治療を行うのが一般的です。標準治療は、主に「手術(外科療法)」「化学療法(抗がん剤)」「放射線治療」の3つのことを指し、「三大標準治療」とも呼ばれています。
がん治療は、がんがある部位とその周辺に対して部分的に治療を行う「局所療法」と、全身のがんに対して行う「全身療法」の2つに分けられます。
放射線治療は手術と同様に局所療法の1つです。放射線治療と一口にいっても、放射線治療単体で行う治療から、手術や抗がん剤と組み合わせて行う治療など、がんの部位や患者様の病状に応じてさまざまな治療方法があります。
がん患者さんの中で放射線治療を受けている割合は、厚生労働省の「がん対策基本法」の資料によると、アメリカで66%、ドイツで60%、英国で56%にも及びますが、日本では25%程度といわれています。
米国では、がん患者の半数以上が放射線治療を受けているのに対し、日本では、放射線治療における対応がまだまだ行き届いておらず、「がんは切るもの」との意識が強いことが影響しているかもしれません。しかし、放射線治療は切らずに治療が行えるため、患者様への肉体的負担が少なく、臓器の機能や形態を温存しながら治療ができる、身体にやさしい治療法です。
日進月歩のがん治療では、放射線治療も日々進歩してきており、がん細胞に集中的に放射線を照射し、周囲の正常細胞への影響を極力抑えた治療も登場してきています。
※厚生労働省「がん対策基本法」より
放射線治療は、身体への負担を抑え治療後の副作用も少ないことが特徴の1つで、体の機能を保ちながら治療ができるため、身体的、精神的な負担を軽減できます。
また体力的に手術の難しい高齢の患者さんや他の病気などで治療が行えない患者さんにとっても選択肢の1つとなる可能性もあります。
切らずに治療を行えるため、臓器の機能や見た目を損なうリスクが少なく、身体的、精神的な負担が少ない治療法です。
切らずに身体への負担を抑えて治療ができるため、治療後のQOL(生活の質)の維持がしやすい治療法です。
放射線治療は通院での治療が可能です※。入院によって大きく生活を変えることなく治療に臨むことができます。
※一部の放射線治療や、抗がん剤治療との併用により全身状態を管理する必要がある場合などにおいては入院を伴います。
放射線治療の種類は、大きく分けて2つです。1つは、「外部照射」と呼ばれ、体の外側から放射線を当てる治療法です。IMRT(強度変調放射線治療)やSRT(定位放射線治療)、陽子線治療や重粒子線治療などがこれにあたります。
もう1つは、「内部照射」と呼ばれ、体の内部からがんやその周辺に放射線をあてる治療法です。小線源治療などがこれにあたります。どちらが優位ということはなく、患者さんの病状や状況に応じて治療方法が選択されます。外部照射と内部照射を組み合わせて治療を行うことも少なくありません。
また、放射線治療では、放射線だけを使用する治療方法と、化学療法(抗がん剤)や手術、温熱療法などを併用して治療する方法もあります。
放射線治療では、放射線が当たった部分に大きな影響を与えます。そのため、放射線はがんだけに当てるのが理想ですが、現実にはがんの形状が複雑であったり、他の部位と隣接してしまっている場合など、周囲の正常な組織にも放射線が当たるため、放射線があたった部分に副作用が起きます。
高精度放射線治療と呼ばれる放射線治療では、がんの形状に合わせて放射線に強弱をつけること(IMRT)や、三次元的に多方向から放射線を照射する(SRT)ことで、正常組織にあたる放射線量を少なくし、がんに集中して放射線を照射することが可能です。
さらに、IGRT (画像誘導放射線治療)と呼ばれる位置合わせを行う補助技術を用いることで、治療直前の患者さんの腫瘍位置を正確に捉えることが可能となり、より精度の高い照射をことができます。
また、IMRT(強度変調放射線治療)の場合、がんが限局(他の部位に転移がない)している場合であれば、大多数のがんで保険診療による治療が可能※です。
がん治療に利用されている放射線は、大きく分けて光子線と粒子線の2つがあります。光子線とは、光の仲間で波長の短い高エネルギー電磁波の一種です。そのうちX線やガンマ線などが放射線治療に利用されています。従来の放射線治療や高精度放射線治療は、X線を使用した放射線治療です。 素の原子核(陽子)や炭素の原子核などの粒子を光速に加速した放射線(陽子線、重イオン線)粒子線といい、粒子線を利用した放射線治療を「粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)」といいます。
粒子線は、ある深さにおいて最も強く作用し、また一定の深さ以上には進まないという特性があり、体の深いところにあるがんに集中的に多くの放射線を当てることができるため、体の浅いところにあるの正常な組織の損傷を低く抑えられることが特徴の1つです。X線では、放射線のエネルギーは体表面から1~2cm下の皮下組織で最も強くなり、その後次第に減衰していきますが、粒子線では放射線のエネルギーのピークを体の10cm以上深いところへ調整することで、正常組織にあたるエネルギーを小さくし、がんに対して多くの放射線を当てることができます。
粒子線治療も従来の放射線よりもより多くの放射線を当てることができ、副作用を少なく大きな治療効果が期待できる治療法の1つですが、治療施設数が少ないこと、保険の適用範囲が限られている※ことも特徴です。
※保険適用範囲(2020年11月時点)
・陽子線治療 ... 小児がん、骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん
・重粒子線治療 ... 骨軟部腫瘍、前立腺がん、頭頸部がん
光子線や粒子線を用いた放射線治療では、体の外部から放射線を腫瘍に照射するのに対して、小線源治療は、放射線を出す物質(小線源)を組織内に直接植え込んだり、組織に針を直接刺して、これを通して放射線をがん細胞に当てる治療法で、体の内部から 病変に極めて近い位置から放射線治療を行うものです。
病変に近い内部から放射線を照射するため、周囲組織への影響も少なく、がんへ多くの放射線を当てることができます。
治療は放射線源の強さによって、24時間から7〜8日にわたって治療する場合と、数分の治療を数回繰り返す場合があります。また、針などを使って小さな線源を永久的に刺入する場合もあり、治療の進め方はがんの性質や場所によって異なります。
例えば前立腺がんの治療では、放射線を放出する小さなカプセル(線源)を50-100個程度前立腺に挿入し、全身または下半身麻酔をかけ治療が行われます。治療後は微量の放射線が体外に放出されるため、周辺への影響が軽微であることが確認されるまで数日の入院が必要となることがあります。
治療方法は部位によって異なり、子宮腔、気管支、食道、胆管などの管腔臓器では、体腔内に線源を挿入する腔内照射、膣、舌、前立腺、乳腺などの部位では、がんに直接線源を挿入する組織内照射が行われます。外部照射と併用して治療が行われることも少なくありません。
※保険適用範囲(2020年11月時点)
・組織内照射 ... 前立腺がん、舌その他の口腔がん、皮膚がん、乳がんなど
・腔内照射 ... 子宮腔、腟腔、口腔、食道、気管支、直腸などのがん
従来のエックス線治療 | 高精度放射線治療 (IMRT/SRT等) |
粒子線治療 (陽子線/重粒子線) |
小線源治療 | |
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線量の集中性 | 低い | 高い | 高い | 高い |
不整形な腫瘍への照射 (複雑な線量分布の形成) |
困難 | 可能 | 可能 | 可能 |
保険適用範囲 | 大多数のがんに適用 |
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入院の有無 | 無 | 無 | 無 | 有 |
費用(患者負担額) | 前立腺がんで多門照射の場合 保険1割負担:約7万 保険3割負担:約20万円 |
前立腺がんの場合 保険1割負担:約15万円 保険3割負担:約45万円 |
前立腺がんの場合 保険1割負担:約16万円 保険3割負担:約48万円 |
前立腺がんの場合 保険1割負担:約12万円 保険3割負担:約40万円 |
※1 小数個の転移を指し、一般的に「オリゴ=少ない」と「メタスタシス=転移」の二つの言葉を合わせ
「オリゴメタスタシス」と呼ばれています。
※2 2021年8月時点の情報です
放射線治療の副作用は、主に放射線を当てた場所に起こります。治療中や治療直後(急性期)に現れるものと、半年から数年たってから(晩期)現れるものがあります。照射部位や範囲、放射線の量などにより症状が異なり、起こり方や時期には個人差があります。
「副作用が強い」というイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、技術の進歩によりがんだけをピンポイントで照射する、副作用を抑えた放射線治療も登場してきています。
主な副作用には、治療期間中や治療終了後に起きる急性期反応と、治療が終了して半年から数年経過したのちに起きる晩期反応とがあります。治療直後に起こる主な副作用としては、だるさや疲労感、食欲不振などがありますが、日々のケアや投薬などで解消できる一時的なものが多く、照射部位、範囲、放射線の量などによって症状が異なり、個人差も大きいものです。
放射線治療では、がん周辺の正常細胞にも放射線が当たり、影響が出ることがあります。各臓器に当てられる放射線量は限度があり、許容範囲を超えると正常細胞も弱ってしまいます。一度目の治療で正常組織に当てられる放射線量の限度いっぱいに照射しているが多いため、同じ部位に再発した場合に、二度目の放射線治療を行うことが難しい場合が多いです。
ただし、がんの種類や部位、初回の照射量が少ない場合など、再度治療が行える場合もあります。また、放射線が当たっていない部分への影響はないので、照射する場所(部位)が違えば、何度目であろうと問題なく治療することができます。
外部照射である高精度放射線治療や粒子線治療では、通院での治療が可能なため入院の必要はありませんが、内部照射である小線源治療の場合、麻酔の有無や体内の放射線量の関係で入院が必要な場合があります。
がんによる呼吸困難や飲みこみの阻害、骨転移による痛みやその他出血など、がんの進行によりさまざまな苦痛をともなう症状が出ることがあります。
放射線治療により、痛みや苦痛の元となる腫瘍を治療することで、それらの苦痛を和らげることもできます。
手術では、近年、治療機器やロボット手術の発達に伴い、ご高齢者にも負担の少ない治療ができるようになってきています。抗がん剤も、投薬量を調整や副作用の少ない新薬を使用するなど、ご高齢者に合わせた方法が選択されることもあります。
放射線治療では、負担や副作用を抑えた治療を行うことができるため、ご高齢者でも比較的治療ができる可能性の高い治療の1つです。